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施工管理職の仕事の魅力④

更新日:9月9日


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完成という瞬間:形に残るものと、記憶にしか残らないもの

建築現場の竣工は、花火大会のクライマックスのような派手さはない。誰かが盛大にカウントダウンをしてくれるわけでもない。だが、その瞬間は、確かにやってくる。

ある朝、足場の解体が終わった現場で、外壁が陽の光を浴びて輝いていた。周囲の人々にとっては「新しい建物ができた」という事実にすぎない。だが施工管理者にとっては、その光景は圧倒的だった。数か月、あるいは数年の時間と膨大な判断の積み重ねが、ようやく一つの形になったのだ。

引き渡しの日。クライアントが建物の中を歩き回り、壁の色や床の質感を確認する。彼らは満足そうに笑う。その笑顔を見ると、施工管理者は報われる。だが、彼らが笑う理由は、建物そのものにある。裏側でどんな苦労や葛藤があったのか、クライアントは知らない。知らなくてもいい。それが正しい。

施工管理者は、完成という瞬間に二つのものを受け取る。ひとつは形に残る建物。もうひとつは記憶にしか残らない時間だ。

建物は確かにそこにある。鉄骨やコンクリート、木材やガラスで組み立てられた、揺るぎない構造体。人々がそこで生活し、働き、眠り、笑い、涙を流す。建物は人の営みを受け止める容器だ。それは物理的に残る。

一方で、現場の記憶は形を持たない。夏の朝、汗に濡れた作業着。冬の夜、凍える手で図面をめくった瞬間。資材が遅れ、全員が焦りに包まれた午後。雨上がりの夕方に、虹が足場の向こうに見えたこと。そうした断片的な記憶は、施工管理者の心にだけ残る。誰にも語られることなく、建物の奥底に沈殿していく。

完成という瞬間には、必ず「喪失」がある。現場は解体され、仮設の事務所やトイレは撤去される。そこにあった日常は消える。施工管理者と職人たちが共に過ごした時間は、もう戻らない。だが、その喪失があるからこそ、完成は美しい。

施工管理者は完成のたびに、自分の役割の本質を思い知らされる。彼らは「建物を残す」ために働いている。だが同時に、「記憶を手放す」ことを繰り返している。

あるベテランの施工管理者が言ったことがある。「現場の思い出は、次の現場で上書きされていく。でも、全部が積み重なって自分になるんだ」と。建物は街に残る。だが人に残るのは記憶だ。その両方が、施工管理の仕事の魅力を形作っている。

完成という瞬間は、祝祭であり、別れでもある。建物が街に根を下ろすと同時に、施工管理者はその場所から離れていく。彼らの名前が刻まれることはない。だが、確かにそこに生きた証が残っている。

完成は終わりではない。むしろ始まりだ。建物が使われ、人々が生活を重ねることで、本当の意味での「完成」が訪れる。その過程を想像しながら現場を去る。それが施工管理者の役割であり、彼らだけが知る特権でもある。


 
 
 

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